大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)115号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件特許発明の要旨並びに原審決及び本件審決の理由の要点並びに第一引用例ないし第四引用例が本件特許出願前頒布に係る刊行物であり、それらに原審決認定の技術内容の記載があることは、本件当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は本件特許発明と第三引用例(給水口の技術内容については、第一引用例及び第二引用例をも併せ引用)との対比に当たり、両者その構成及び作用効果を異にするにかかわらず、この点を看過誤認し、ひいて、本件特許発明をもつて第一引用例ないし第四引用例から容易に発明しうる程度のものとの誤つた判断を導いたものである旨主張するが、本件審決の認定ないし判断は正当であり、原告の主張は、以下説示するとおり理由がないものといわざるをえない。

1 前示本件特許発明の要旨に成立に争いのない甲第一号証(本件特許公報)を総合すると、本件特許発明は、従来の液封式真空ポンプにおいては、ランナーとエヤーパツセージとの間の多少の間隙が使用経過に従い、漸次摩滅して間隙の度を増し、加圧された前方の高圧空気が後方の圧力の低い方へ戻り、このため容積効率の低下や真空度の低下を惹起する弊害があつたところ、この弊害を除去することを目的とし、本件特許発明の要旨(本件特許明細書の特許請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成を採ることにより、その目的を達したものであり、右構成によると、ポンプ機筐内の封緘水の一部を機筐内部の両側部に設けた噴水取入口及び取付管より取り出し、その圧力水を直接ポンプ機筐内の通水孔に縦列して穿設した多数の小孔より噴出させ、ランナーとエヤーパツセージとの間を水膜により密閉させるもので、このようにポンプ機筐内の圧力水を還元させることにより、ポンプの性能を高め、ランナーとエヤーパツセージとの間に液体摩擦を行わしめ、その水膜による密閉により空気の漏洩を防止すると共に摩滅を軽減せしめる効果を奏しうるものであることを認めるに十分である。

2 他方、前示当事者間に争いがない第一引用例ないし第三引用例の技術内容に成立に争いのない乙第一、第二号証(第一引用例及び第二引用例)及び同第四号証(第三引用例)を総合すると、第三引用例は、水封型回転ポンプにおいて、配気筒5の周面が封水面に最も接近した位置すなわちポンプの吸気孔と吐出孔との隔壁の外周部に独立した給水口8を設け、気筒2の外周に連絡した抽水管12から圧力水を取り出し、この圧力水をエゼクタ14に導いて、エゼクタから吐出された水を適当な圧力をもつて再び前記給水口8に導くようにした構成のものであり、これにより、運転中排気に混じて逸出する気筒内の封緘水を封緘水の圧力を利用し、気筒内へ還元補給するほか、還元した給水の一部をもつて排気の逆流を阻止しうるように羽根車と配気筒との間に水封を施すと共に摩滅の軽減をなしうる効果を奏するものであることが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。叙上認定したところによると、第三引用例においてエゼクタを用いているのは、運転中排気に混じて逸出する気筒内の水を気筒内の封緘圧力水と共にその圧力を利用して気筒内に補給するためであることは明らかであるが、第三引用例は、単にこのような気筒内の逸出水の補給だけではなく、気筒内の封緘圧力水を気筒内へ還元供給し、その圧力により羽根車と配気筒との間を水封し、排気の逆流を防止すると共に摩滅の軽減を図るという技術思想をも有することは明白である。これを本件特許発明の前認定の構成及び作用効果と対比すると、気筒(本件特許発明にあつてはポンプ気筐に相当)内の圧力水の一部を取り出し、その圧力を利用し、これを気筒(ポンプ気筐)内へ還元供給する技術的構成及び封緘水の還元供給により羽根車(同じくランナーに相当)と配気筒(同じくエヤー。パツセージに相当)との間を水封し、摩滅を軽減する作用効果において、両者格別の差異はないものというべきであり、結局、本件特許発明は、第一引用例ないし第四引用例から容易に発明しうる程度のものとみるのが相当である。

3 原告は、第三引用例は封緘水の補給を容易にするためのエゼクタ作用に主目的があり、エゼクタがなければ封緘水の還元補給をなしえないにかかわらず、本件審決は、この点を看過し、本件特許発明の主目的を考慮することなく、単に圧力水の取出しと還元の点のみを取り上げて偏頗な判断をした旨主張する。しかし、第三引用例がエゼクタ作用による逸出封緘水の還元補給のほか、封緘水の還元供給による圧力利用の技術思想を含むこと前説示のとおりであるから(なお、本件特許発明においても、逸出した封緘水量に相当する水量を何らかの方法によりポンプ気筐内に補給しなければならないことは、技術常識上明らかなところである。)原告の右主張は、到底採用しうる限りではない。また、原告は、本件特許発明と第三引用例(給水口の構成については、第一引用例及び第二引用例を引用)は、(一)圧力水の取出し位置、(二)圧力水の圧力及び水量並びに(三)圧力水の給水口の形状の点において著しい差異があり、その結果、作用効果においても、両者、異なる旨主張する。よつて、順次判断するに、(一)本件特許明細書の特許請求の範囲には、噴水取入口を「機筐内部の両側部」に設ける旨の記載があることは前認定のとおりであるが、前掲甲第一号証、殊にその「発明の詳細なる説明」の項中の記載によると、「両側部」を「両横部」と限定して解すべき特段の根拠は認められず、若干両横部より上下に偏位している場合においても、圧力水に必要な圧力を得るに適する限り、これを含むものと解するを相当とするところ、前掲乙第四号証によると、第三引用例において圧力水の取出し位置は、羽根車により遠心力を与えられた封水を取り出すべく、気筒の両横部の斜め上下にそれぞれ設けられていることが認められ、この事実に第三引用例の前認定の作用効果を併せ考量すると、第三引用例の右封水取出し位置と本件特許発明のそれとの間に格別の差異があるものということはできない。次に、(二)圧力水の圧力及び水量についてみるに、前認定の第三引用例の構成に照らすと、第三引用例においては、封緘水を取り出し、この圧力水をエゼクタに導き、補給水を加えて給水口から気筒内へ戻入させるため、取り出した圧力水よりも給水量が増え、また、圧力水の圧力が若干低下することは免れないものと認められるが、給水口から気筒内へ還元戻入される水の圧力は羽根車と配気筒との間を水封するに足るものであることは前認定のとおりであるから、封緘水の還元戻入及びその作用効果において、第三引用例のものと本件特許発明との間には格別の差異はなく、したがつて、上記の圧力水の圧力及び水量の点は第三引用例記載の作用効果に影響を及ぼす程度のものと認めることはできず、これを左右するに足る証拠はない。更に、(三)圧力水の給水口の形状の点についてみるに、前認定の事実に徴すると、本件特許発明において、圧力水は、ポンプ機筐内の通水孔に縦列して穿設した多数の小孔より噴出するに対し、第三引用例において圧力水を還元戻入する給水口の構成は、前掲乙第一、第二号証及び第四号証を総合すると、轂部(配気筒)に開口した長い溝状の間隙であるから、圧力水の噴出口の形状において、両者相異なることは明らかであるけれども、その圧力水による水封効果等において両者格別の差異がないことは前認定のとおりであるから、叙上の差異は単なる設計上の微差にすぎないものとみるを相当とする。なお、原告は、本件特許発明の通水孔に穿設した多数の小孔は羽根の厚みより小さい径の小孔であるに対し、第三引用例のものにおいては、給水口の間隙は羽根の厚みより大である旨主張するが、前掲甲第一号証及び乙第一、第二号証によると、本件特許発明における通水孔に穿設した小孔の径及び第三引用例における給水口の間隙の広さは、いずれも原告主張のように限定的に解すべき根拠はないものというべく(明細書又は説明書の図面のみから、直ちに原告主張のように解することはできない。)、両者間に右原告主張のような差異があるものとは認めることができない。したがつて、原告の叙上主張は、いずれも採用しうべき限りでない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却する。

〔編註〕 本件における特許発明の要旨は左のとおりである。

液封式真空ポンプにおいて、機筐内部の両側部に噴水取入口を設け、該噴水取入口と両側蓋の縦横十字線上に穿設せる通水孔とを取付管にて連結し、該通水孔はその先端においてネツクブツシユに通ずる通水孔とエヤーパツセージの隔壁内に設けたる通水孔とに連通し、隔壁内通水孔は外方に向かい縦列して多数の小孔を穿設せる液封式真空ポンプ内部噴水装置。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!